合同会社の現状。AppleやAmazonが合同会社にしたのはなぜ
合同会社の実態とは?話題の大手企業が合同会社を選ぶ理由・メリット
日本では2006年に合同会社という形態ができてから17年という月日が経ちました。日本でも合同会社という形態をとり、会社を設立することが可能となっています。
合同会社は、株式会社とは違った魅力があり、外資系大手企業の中にも合同会社という形態を取っているものが数多くあるようです。
ここでは、合同会社の現状と外資が選択する理由を解説します。国内の合同会社の数は増えているのか、問題なく経営できるのかなどについても触れていきます。
※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください
この記事の目次
合同会社が増加している現状
合同会社の歴史はまだ浅く、日本国内ではようやく認知度が高まってきた状態です。
しかし、合同会社の基礎となった形態を作り、発展させてきたアメリカでは合同会社を選択することも多く、アメリカの大企業の日本法人が合同会社の形態を選ぶことで、日本国内でも合同会社への認知が広がっているようです。
合同会社の始まりと、日本国内の現状について確認してみましょう。
合同会社の誕生はアメリカ
合同会社は、日本ではなくアメリカで始まりました。その歴史は古く、遡ること40年、1977年のこととなります。
アメリカのワイオミング州でパートナーシップ制度を発展させた新しい組織形態として「Limited Liability Company」が誕生したことで、合同会社の歴史は始まりました。
「Limited Liability Company」とは「有限責任会社」という意味の言葉です。日本では、この会社形態をモデルに「合同会社」という会社形態を作りました。
頭文字である「LLC」はアメリカではもちろんのこと、日本でも合同会社を指す略称として知られています。
法制化された当初は、アメリカでも税金の扱いが不明瞭だったことから設立を躊躇することもありましたが、制度が整うとともに増加の一途をたどることになりました。
著しい伸び率を示し、合同会社はアメリカ国内では毎年20%程度の勢いで増加しています。
合同会社はアメリカの企業の形態として大きな一角を占めるものと言えるでしょう。
外資の大手企業が合同会社を選択
アメリカで始まり、さらなる増加を続けている合同会社(LLC)ですが、日本に進出してきている外資系企業の中にも合同会社は多くなっています。
外資系大手で、日本人の誰もが知っているような企業が合同会社という会社形態をとっており、その利便性への評価の高さがうかがえます。
主な外資系大手の合同会社としては、Apple Japan、Google、アマゾンジャパンなどがあります。
それぞれに、その特徴的な利点を得るために合同会社を設立し、日本への進出を成功させていました。
Apple Japanは、2011年に合同会社へと会社形態を変更しています。Apple Japan合同会社は、iPhoneやMacなどで知られている「Apple社」の日本法人です。
アメリカ本社のAppleは株式会社ですが、日本法人は株式会社であったのをあえて合同会社に変更しています。
Googleの日本法人も、2001年の設立当初はグーグル株式会社でしたが、2016年に合同会社に組織変更した一つです。
インターネット関連ビジネスに特化しており、検索エンジンとして知らない人はいないのではないかという知名度の高さを誇ります。
そんなGoogleはGoogle LLCとしてアメリカ本社も合同会社の形態を採っています。
アマゾンジャパンは、ネット通販で有名なAmazonの日本法人です。
上記二社と同じく、設立当初は株式会社だったアマゾンジャパンも、2016年に合同会社になっています。また、Apple同様にAmazonのアメリカ本社は株式会社です。
このように、アメリカに本社を構える大企業の中には、日本法人を合同会社にする企業が見られます。
本社は株式会社であり、日本法人設立当初には株式会社の形を採っていたにもかかわらず、組織変更で合同会社にしているケースもありました。
どうやら、日本に拠点を置く外資系企業にとって合同会社であることはいろいろと都合が良いようです。
国内での新設法人でも合同会社が増加
日本国内では、2006年に合同会社という形態ができましたが、長い間ずっと合同会社への認識は一般的には低いものでした。
スタート時の2006年には3392社の合同会社ができましたが、それでも一般的には知らない人が多く、その知名度のなさから高い信用を得られないこともあったようです。
アメリカでは認知されていた合同会社も、日本ではあまり知られていませんでした。
しかし、日本国内でも、合同会社の設立数は、徐々に伸びてきており、2015年にはスタート時の約12倍にあたる48,290社となりました。
東京商工リサーチが調査した2021年「全国新設法人動向」によると、合同会社は3万6,934社になったことが明らかになりました。
前年比では10.9%増、構成比は25.5%となり、初めて3万6,000社を超えています。合同会社は右肩上がりで上昇しているのが現状です。
外資系大手の企業が日本法人として合同会社の形態を選択することによって、一般的な認知度も高まっているのではないでしょうか。
合同会社が増えた理由
これまでは株式会社や有限会社がメジャーであり、それに加えて合資会社や合弁会社があった日本国内の会社形態でしたが、有限会社を設立できなくなり、合同会社が新しい形態として登場しました。これによって、国内でも合同会社を選ぶことができるようになり、もともとLLCという形態を持っていたアメリカの企業が日本で合同会社を設立するなど、新しい動きが始まっています。
外資大手が合同会社を選ぶ理由
企業が合同会社を選ぶ理由には、合同会社の設立コストの低さや経営の柔軟性が関係しています。
株式会社と違って、合同会社は初期の費用を抑えられ、設立のハードルが低いものです。
また、株式会社のように株主(出資者)と経営者がおらず、経営者=出資者となるため、意思決定がよりスピーディーになるメリットもあります。
場合によってはデメリットになることもありますが、ルールを厳しく決めておくことで、株式会社よりもスムーズな経営ができることもあるのが合同会社を選ぶ理由です。
特に、外資系大手であるAppleやGoogle、Amazonなどの大企業が合同会社を選んで組織変更までしたのは、後者の理由が大きいでしょう。アメリカの本社との連携を考えた場合、株式会社では柔軟性に欠け、やりにくい面があります。
設立コストの低さ
株式会社と比較した場合、合同会社の設立コストは低くなります。
株式会社の設立のために必要な手続きの中には、合同会社では必要ないものもあり、登録時の必要経費も低く設定されています。
そのため、コストを抑えて合理的な会社設立を考える際には、合同会社を選ぶことが多いようです。
また、手続きもシンプルなので、日本で煩雑な手続きを避けることができます。
株式会社 | 合同会社 | ||
登録免許税 | 15万円 | 6万円 | |
定款印紙代 | 4万円(電子定款の場合は0円) | 4万円(電子定款の場合は0円) | |
定款認証手数料 | 5万円 | なし(0円) | |
定款謄本手数料 | 2,000円 | なし(0円) |
株式会社と合同会社の費用で大きく異なるのは、登記の際に必要となる登録免許税です。
合同会社であっても法務局での設立登記は必要ですが、登録免許税の最低金額が異なり、合同会社の方が低くなっています。
正確には、資本金額×0.7% または15万円(合同会社は6万円)のどちらか高い方を支払うことになります。
また、株式会社の設立では、定款を公証役場で認証してもらう必要がありますが、合同会社ではその必要はありません。
合同会社でも定款の作成は必要ですが、認証が必要ないため、それにまつわる手数料がすべて0円となります。
母国ルールに合わせた会社運営ができる
日本国内で外資系企業に合同会社が多くなったのは、会計監査基準など、母国のルールに合わせて会社経営ができることが大きな理由の一つです。
日本の株式会社では、株主総会や取締役会、監査役や会計監査人監査などが必要となります。
手続きは煩雑で、すべて日本のルールに則って進めなければいけません。こうした機関設計と手続きは大きな負担になります。
ところが、合同会社には機関設計が必要なく、さらに会社経営のルールが比較的柔軟です。会計監査基準も日本のルールではなく母国のルールで行うことができます。
アメリカの起業の日本法人が合同会社の場合、アメリカの税制上ではパススルー課税を選択できることになります。
パススルーとは、法人や組織に課税せず、構成員に対して課税する方式です。
企業の利益には法人税がかからず、出資者が所得税を支払う方式ですが、日本の合同会社ではできません。
税制面にはさほど違いはない
母国のルールで経営を進められ、メリットもある合同会社ですが、税制面の取り扱いには取立て違いはないとされています。
外資系企業だからこそのルールはありますが、アメリカの親会社がメリットを得るものに過ぎません。
国内で合同会社が増えた理由
アメリカで始まり、日本の外資系企業で増えてきた合同会社ですが、国内の企業でも合同会社を選ぶケースが増えています。
日本で合同会社が増えてきた理由にも、合同会社の組織や経営方法のシンプルさやスピード感があるようです。
また、法人格を持ちたい事業者が低コストで法人化できることも合同会社が増えた原因の一つです。
会社組織のシンプルさが魅力に
合同会社は出資者である社員が実質的な経営の意思決定を行い、利益分配も自分たちのルールで決定するという単純で分かりやすい組織形態です。
株や株式という概念がなく、出資者と経営者が同一になります。会社組織がシンプルなので、経営の自由度も高くなり、意思決定のスピードも早くなります。
また、利益の分配も定款に定めておくだけで、自由に割合を決めることが可能です。
株式会社のように出資の比率に縛られることなく定められるため、出資額に関わらず利益に貢献した社員に公正な分配をすることができます。
個人の法人化が増加した
日本国内で合同会社が増えたのは、低コストで設立できるため個人事業主の法人化に利用されるようになったことも関係しています。
個人が法人化して一人で会社を設立することは以前からありましたが、合同会社を利用できることになって、より低コストで設立できるようになりました。
このため、コストのせいで法人化を躊躇していた人も、合同会社での法人化を行うようになりました。
個人事業主が法人化すると、信用度が高まり、大きなプロジェクトにも参入することが可能です。
また、消費税の免除など、個人では得られないメリットもあります。そのため、個人事業主の法人化の手段として合同会社は注目されるようになりました。
合同会社で気になるトラブルの実態
合同会社には、株式会社にはないメリットもありますが、合同会社だからこそ起こりやすいトラブルもあります。
合同会社の会社形態を選ぶ際には、合同会社ならではのリスクについて考えておくことが大切です。
利益配分率でトラブル
合同会社では、社員への利益配分率を自由に決めることができます。
出資額(株式数)によって決まる株式会社とは違い、1円しか出資していない社員と100万円出資した社員が同じ利益分配率であっても良いということです。
このルールは、使い方次第では個々の業績を正しく評価することにもつながりますが、一方ではトラブルの原因になることも多いです。
例えば、少額の資本金で参加した社員と多額の資本金を出した社員が同じ利益配分になっていたら、多額の資本金を出した方は不満を感じるでしょう。
仮に資本金は少額でも売上げに大きく貢献していたのであれば話は別ですが、売上げにも貢献していない場合には高額な資本金を出した人は納得できません。
そのことから社員同士に軋轢や感情のすれ違いが生まれ、経営の意思決定の場でのトラブルにも発展することがあります。
決議の意見対立でトラブル
合同会社は、出資額の割合に関係なく、全ての出資者(社員)が同じ決定権を持っています。
また、決議の際には、定款に定めのない限り、社員の人数の過半数で決定するルールです。
そのため、決議で意見が対立した場合に、意思決定できず、経営がまったく進まなくなる恐れがあります。
社員はすべて対等なので、どちらも譲らなければ、いつまでも意思決定できません。
こうした事態を防ぐためには、あらかじめ定款で出資額に応じて票数を決めるといった決めごとをしておく、社員の人数をあえて奇数にするといった対策があります。
また、合同会社設立の際に、安易に友人などを社員として迎え入れることなく、自分ひとりで経営することも大切です。
合同会社が向いているケース
合同会社が向いている企業は、3つのパターンがあります。それぞれどのような事業内容なのか紹介します。
BtoC(一般消費者向け)事業
BtoC事業とは、一般消費者向けの商品やサービスを提供する事業のことです。
たとえば、ネットショップやITサービスのようにインターネットを利用した事業や、カフェ・サロンや学習塾などの店舗系もBtoC事業に含まれています。
なぜ一般消費者向けの商品やサービスを提供する事業が合同会社に向いているかというと、{消費者は店舗名を気にしても会社名を気にする人は少ない}からです。
知名度が高いのは店舗名のほうで、会社名を知らない消費者は少なくありません。消費者が重要とするのは会社名ではなく、サービス内容やブランド力のほうです。
たしかに、合同会社は社会的信頼度の面で株式会社と比べて劣ります。
株式会社と比べて合同会社は守る法的ルールが少ないため、消費者や取引先から見て安心感は低下するかもしれません。
しかし、一般消費者向け事業であれば社会的信頼度の低さはデメリットにならないケースが多いため、合同会社を選択する場合があります。
商品名・ブランド名などが有名な企業としては、Apple Japan合同会社が該当します。
ほかにも、「SK-Ⅱ」のスキンケアブランドでも知られるP&Gプレステージ合同会社も同様です。
小規模事業
小規模事業も、合同会社は向いているとされています。1人で経営している個人事業主、家族や仲間の少人数で経営する事業などです。
また、オーナー1人で運営する不動産投資も合同会社が向いているでしょう。
株式会社と合同会社の大きな違いは、{事業展開規模の大きさ}です。小規模事業はその名前の通り事業展開規模が小さいため、合同会社に向いています。
また、小規模のスタートアップ企業も合同会社が向いています。株式会社では意思決定に制限がありますが、合同会社なら迅速な決定ができるためです。
資金やノウハウを持つ人が共同で始める事業
資金やノウハウを持った人が共同で事業を始める場合は、利益配分の面で合同会社が向いています。株式会社では{提供者へ平等な利益配分ができないから}です。
合同会社であれば、資金提供者や企業にも、新商品へのアイディアやノウハウを持った人にも、平等に利益を分配できるメリットがあります。
まとめ
合同会社は、外資系日本法人のように、大手企業でも取り入れられる会社形態です。
メリットも多く、外資系のみならず、日本国内の個人事業主の法人化の方向性としても魅力があります。
ただし、合同会社の仕組みやルールの中にはトラブルの火種となることも含まれており、特に、他のメンバーと合同会社を設立する際には慎重に進めることが必要です。
合同会社をトラブルなくスムーズに経営するためには、定款作成の際に内容を吟味することをおすすめします。
(編集:創業手帳編集部)